佐藤純の賭博回遊業 火災でも生き延びました
知人から仕事を持ちかけられ、内容も聞かずに軽い気持ちで請けてしまったのが、これが間違いだった。どうやら月曜日から土曜日まで拘束されるらしく、まともに打てるのは日曜日だけと成ってしまった。今月と来月を凌げば、その先に仕事を入れていないので、それまでの辛抱だと自分に言い聞かせているのだが、博打依存症の俺にとって辛い事この上ない。
俺の近況は置いといて、今回は過去の物語を紹介する。
―――その日は元手の10万円を懐に入れ、1円ポーカーで有名な某店舗を目指して町を歩いていた。その店は、今では放火による火災で影も形もなくなっているビルの2階に存在していた。
ポーカー屋がどういう店なのか、知らない方も多いだろうから少々説明をさせてもらう。
簡単に説明すると、ポーカーで遊ぶためのポイントを現金で購入し、そのポイントを賭け、最終的にそれを現金で払い戻す。所謂違法賭博というやつだ。サラリーマン、夜の女性、怖い系のお兄さん、その辺の学生連中、と色々な人種が入店していたと記憶している。
レートは店ごとに変わるのだが、全盛期は1点=10円の店が一番繁盛していた。ゲームは1ゲームで100点を使う。つまり、5000円=500点=5ゲーム分という訳だ。店員に金を渡すと、マシーンの鍵穴に鍵を挿し、カチャカチャ回してポイントを追加してくれる。
今回の元手は10万円のため、10円ポーカーで遊ぶには資金が心もとない。1円ポーカーは遊ぶには丁度良いレートで、お財布にも少し優しい感じなのだ。
ポーカー店では、入店初回の入金に対して、毎日同額のボーナスを出してくれる店が殆どだった。仮に3000円のポイント購入に対して6000点のポイントが付く訳だ。俺はそこに目を付け、店舗をハシゴしてボーナスを貰い、勝てなかったら即撤収(場合によっては少しの追い銭をする)。これを繰り返して勝率アップを目指していたのだが、正直成績は芳しくなかった。
話を戻すが、火災のあった店に入店し、ボーナスを消化して帰ろうとしたその時だ。店員が俺に忍び寄り、小声で「ガジリしてんじゃないよ!うちの店には、もう2度と来るな。」と囁いた。
そんな事を言われた次の瞬間、きな臭い匂いが店内に流れ込んできた。
「そんな事は跡でいくらでも聞いてやるよ!まずは逃げる事を考えろ!!今は命を守る事が最優先だ」
危険を察知した俺は叫び、店員と客を店外に誘導した。この時に気付いていなければ、今の俺は居ないし、他の人間も死んでいただろう。本当にあの時ばかりは、金の問題では無かった。店も客も、手元の金は持って逃げたが、ポイントの清算もやっておらず、金庫の金も放棄して逃げたのだから損失はでかいだろう。命が有れば金は作れると割り切るしかない。
後から聞いた話にはなるが、火災の原因は放火だったらしい。俺は5000点のポイントを失い、店員からは詰られてしまったが、命は助かったのだから安いものだ。
―――そんな事件に出くわした翌日、本カジと言われている『海外式の裏カジノ』に俺は足を伸ばしていた。昨日の今日で不謹慎だと思われそうだが、消化不良なのだ!あまり攻めないでほしい。
店員に9万円を渡し、900ドルチップとサービスチップの50ドルを受け取る。しばらく店内をうろつき、賭場独特の空気を楽しんでいると、体が賭場に溶け込んでいく感覚があった。どうやら場の空気に慣れ、戦闘モードに突入したらしい。
バカラで戦うことを決めた俺は、罫線も見ず、何の根拠もなくプレーヤーに500ドルを投入した。普段ならありえない賭け方なのだが、勘というべきか、「絶対に勝てる」という自信があったのだ。そして、それは現実となった。プレーヤーに3と6のカードが配られ、一瞬で勝負がついた。
長いこと博打を続けていると、何をやっても裏目にでることはしょっちゅうあるが、その逆の流れは極稀だ。どうやら今日は極稀の流れを掴んでいる気がする。2回目も置き張りし、何の障害もなくあっさり勝利している。
本来であれば、この波を大船に乗って突き進んでいくのが王道なのだが、当時職を持っていた俺は、中断という選択肢を選んでしまった!確かに勝ち波はきているのだろうが、俺の乗っている船がハリボテの船ならば、身を滅ぼしかねない。幸い、この店の店長は顔なじみだったため、短時間勝負だったがアウトコールを受理してくれた。
帰路に着いた足どりは、財布の重みとは反対にとても軽く感じられた。
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